幼女戦記Ⅱ・第7話
ゼートゥーア中将指揮するB軍集団の作戦は何とかうまく行った。約束どおりにゼートゥーア中将はデグレチャフ中佐をお茶に招待する。同盟国たるイルドア王国からの茶葉を使った紅茶。
アンドロメダ作戦の戦線維持側のB軍集団はうまくやった。だがA軍集団は駄目だった。連邦の資源地帯の占領に至らなかった。ヨセフグラードで進撃は止まった。だから作戦自体は頓挫したのだ。止まった理由は補給が追いつかなくなったから。攻勢限界。もう帝国の限界なのだ。
ここからデリケートな話題。帝国は勝利する事に依存している。だから我々は内なる課題に勝利せねばならない。その為には悪い手札も使わざるを得まい。何だその悪い手札とは。
東方戦線でうまくやるには西方を何とかせねばならない。西方とは?デグレチャフ中佐が尋ねたのは所謂バトル・オブ・ブリテンみたいな戦線か。しかしゼートゥーア中将はそれよりは東だと言う。それ、もう帝国の占領地帯では。
デグレチャフ中佐はそれに気づく。でも味方を撃つのだけは勘弁して欲しい。そう思ったのにゼートゥーア中将は共犯者になってくれと言うのだ。それにどう答える。まさか嫌とも言えない。一方で喜んでとも言えない。曖昧な帝国と帝室の為の合法的命令には従うとだけ答える。ゼートゥーア中将としてはそれが聞きたかった。
では、本国、帝国の現状をその眼で見て来いと言うのだ。こうして汽車で帝都ベルンへの旅に。駅ではレルゲン大佐が迎えてくれる。或いは帝都に戻ったのはデグレチャフ中佐だけかと思ったが、セレブリャコーフ中尉とヴァイス少佐(元気になったか)が居るので、部隊全員、流石に機甲部隊は移動しないだろうから魔導部隊は帰って来た模様。
レルゲン大佐はデグレチャフ中佐とだけ話をしたい様子だったのでヴァイス少佐とセレブリャコーフ中尉は部隊の休暇処理の方へ向かわせる。
レルゲン大佐からは三点。まずは参謀本部と最高統帥府は東部の作戦失敗で揉めている。あの作戦で勝利する筈だったのに。だから軍は別の素晴らしい勝利を獲得して戦争終結への道筋を作れと言うのだ。もう出来ないだろう。
第二は、西方の航空戦はうまく行っていない。その影響で南方からの引き上げすら考えられている。追い詰められて来たな帝国。
そして三つ目は首都空襲をやって貰うかもしれない。首都とは?今度は連合王国のロンディニウムを?それで戦争がどうにかなるとでも?違う。レルゲン大佐が指さそうとしたのはここ帝都の空。だが、それは口に出せない。レルゲン大佐、帝都空襲で臣民と政治家の目を覚まさせようと言うのか。まさかクーデターではあるまい。
デグレチャフ中佐、今度はルーデルドルフ中将の所へ。ルーデルドルフ中将、まだるっこしい挨拶や話は要らない。前線からの意見が欲しい。はっきり言え、前線部隊は勝てると思うのか。
そこで口を切るデグレチャフ中佐。現場は戦争指導に疑問を持っている。戦略目標は何なのか。確かにアンドロメダ作戦は目的はあった。しかし戦争終結に結びつけられなかった。それでは帝国はどうしようとしているのか。
ルーデルドルフ中将曰く「勝利だ」。何に対する勝利なのか。いや、軍は「勝利」しろとしか言われていない。最高統帥府はもう戦争目的を見失っている。戦争終結のゴール地点を立てられていない。
しかしルーデルドルフ中将はデグレチャフ中佐がちゃんと分かっていないと見ている。前線はあんなに奮闘して苦労している。なのに後方はその奮闘に甘えている。そうデグレチャフ中佐は思っていた。だがルーデルドルフ中将は後方の現実を見せてやる。明日15時に中央駅前の広場に来いと言うのだ。
その夜、ウーガ中佐との夕食。ウーガ中佐はここで帝都の現状を見せてくれた。以前はしっかりした食事を出す店だったのにお茶はハーブティー。前線のゼートゥーア中将が出してくれたのはちゃんとした紅茶だったのに。そして食事は貧しい。前線への協力として後方もこの状態。そして補給を担っているウーガ中佐はもっと現状を知っている。これでいつまでも持つ筈が無い。いつどう破綻するか分からない。デグレチャフ中佐は手元にある情報や物で全てを合理的に判断出来るかもしれないが、ただの人間にはそれは難しい。もう張り裂けそうなのだ。ウーガ中佐をしてここまで追い詰めている。これ、何回か前にウーガ中佐がレルゲン大佐を誘ったCパートがあったが、ここまで追い詰められていたらそりゃ何かに逃げたくもなろう。あの時はウーガ中佐がただの痴れ者に見えたのに。
そして翌日の中央駅前の戦没者式典。棺を担ぐのは病人と未だ戦場に行けない若者が空の棺を担ぐ。それを見る帝都の臣民は何もかも諦めたかの様な様子だ。これはもうある一定の状態を超えている。それをデグレチャフ中佐は見抜けない。それをルーデルドルフ中将はおまえはあほかと気づかせた。合理的判断しか出来ないデグレチャフ中佐には分かるまい。言われなければ。
新聞は帝国軍の勝利だけを報じる。だが、このままでは戦闘では勝っていたのにキール軍港の反乱、背中からの匕首の一撃で帝国は負けるだろう。
まあ酷い見方をすると、それでもデグレチャフ中佐にとっては「戦争が終わる」と言う事態とはなるのだが。

