違国日記・第3話
朝の両親の事故があって、槙生が引き取って、今回の時点でどれだけの日数が経ったのだろう。
何故郵便受けにあんなに溜まってるのかと思ったら、そうか実家に戻って遺品整理か。地域や生活によって違うから郵便受けのあの溜まり方では分からないけど半月は経ってるんじゃないかな。
確か前回槙生に家を買えとか言う話があったのでひょっとして引っ越し?とも思ったけどあのマンションはそのままらしい。となると一部屋分すら持って行けない。よく選んで簡単に捨てるな、溢れた分はトランクルームを借りると槙生は言ってくれた。
取り敢えず朝は食器とか生活用品、槙生は衣類の片付けから始まった。そして槙生は見つける。朝の母、槙生の姉の実里の高校時代の制服を。あの姉が執着なんて持ってたのかと思った槙生。槙生自身は卒業した翌日に捨てたと言うのだ。私はどうしたっけ。まず高校は制服が無い自由化された学校(私の時代にほとんど無い)だったから最後に制服を着たのは中学校。暫くはあったと思ったんだが、着なかったね。
衣服の整理をしながら槙生は思う。一緒に住んでいた頃の姉の記憶と食い違う。これは姉の影が暫くはまとわりつくのかな。
槙生はコートを見つけて朝のにと持ち帰る事を勧めた。槙生の中の姉のイメージと朝とは随分違うから、形見としてと言うけど朝には背丈以上に雰囲気が似合わないんじゃないかな。まあ未だ中学生で大人のコートはこれからだからどうなるか分からないか。
遺品整理は一週間を見込んでいて、その間仕事を伸ばす事を槙生は担当に言ってあった。自由業だけど、やはり締め切りもあるか。或いは連載かもしれない。
ピクルスを発見して朝は「お母さんよく作るよ」と言って、それは現在形だと気づく。一方で槙生が姉の事を言う時は過去形(過去完了)。まあ槙生はそうだろう。嫌いだったからずっと会っていなかったので過去の人だ。朝はどうなんだ。と言う事で槙生さんによる英語の時制の解説。中学生だから過去分詞は習っているし、現在完了進行形も習った。
さてここで問題です。我々は普通だと英語の学習によって「時制」と言うのを意識して覚える。日本語ではせいぜい過去と現在と未来程度しか意識していなかったのが現在完了だの過去完了だの言われて「英語ってそんなに細かいのか」みたいな習い方をする。
が、世界の言語で時制の扱いなど千差万別で三つの時制より少ない言語もあればアマゾン川流域のヤグア語では時制は八つある。こんな初めて聞く言語でなくとも古典ギリシャ語の時制ではアオリストと言うのがあって、大学教養部で初めて見た時はナニソレと思って大学入りたての脳では「取り敢えず過去みたいなもの」と理解した。
話は戻って朝が「現在形」としたのは現在完了進行形として扱い、無理に近い未来を断ち切る必要はないのだと言うのだ。にしてもこんな解説、中学生に普通の職業の大人はしないよね。
一方で槙生は姉の事は過去完了としてる。そんな槙生に実里の事を現在形で話して良いのかと問う朝だが、君がそう思う事は君の事だから問題ないと言うのだ。
そんな話をしてると朝に眠そうな兆候が出ていた。前回槙生は醍醐に「あの子はよく眠る、多分記憶と心の整理をしてるのだろう」と言っていた。朝は大丈夫と言っていたけど自分の部屋を片付ける途中で寝入っていた。ベッドに向かって。そうだなあ、あの槙生の部屋は自分一人で精一杯な広さだったからこのベッドは持って行けないね。やはり引っ越した方が良いのでは。
こうして田汲家の片付けは何日かかけて終わった。
何も無い部屋になった。
朝が出かける。久しぶりの登校だろうとは思ったけど、卒業式の日だった。昇降口で涙目で朝に駆け寄る子が居た。どうした、朝の親が亡くなった事への同情か?にしてはそれ以上の感情に見えるがと思ったが、今回ここから大きな事件が。
彼女は朝の友人で楢えみり。友人だから朝の両親が亡くなったのはそれは聞いたろう。そしてそれをえみりが母に話すの迄はあるだろう。でもここで止まらなかったのだ。えみりの母が学校に知らせ、それがまた連絡網で知られてしまった。
ここで今まで特に感情を表してなかった朝の感情が爆発した。普通の子として卒業式だけ出たかったのに。漏れた発端となったえみりに「だいっきらい」と言い捨てて学校を去る。
この激情が強すぎた。戻った先はあのもう何も無いマンション702号室。ここじゃない、帰る先は。でもどこだったっけ。その後中野で下車したけど、ここじゃない?ベンチで佇む朝のスマホにえみりから着信が沢山入るが朝はそれをうるさいと苛立った。でもその中に槙生からのメッセージ。これでやっと槙生に拾って貰える。
迎えに行った先は西荻窪駅北口だった。
何かあったなと思ったけど朝はなんでもないと言うのだ。でもそうは行かない。先ずは足湯で心を落ち着かせないと。
初めて朝は槙生にぶつかって来たな。卒業式の話から醍醐との話。中高一貫校以来だから長い付き合い。で、槙生は子供の頃から知ってくれてる人間が居るのは自分にとって大事なのだ。まあ朝もそれも考えてみろ。
槙生と醍醐との付き合い、良い付き合いなんだな。
ただどうだろう、その先、家庭を持つと離れるんだよね、私の場合は。
ともあれそう言われた朝、スマホを見てえみりから沢山入っていたメッセージを見る。ここまで思ってくれる友人、大事にしろよ。電話したらまたいきなり泣いてるじゃん。

