アオのハコ・第1話
バスケをやってる鹿野千夏先輩の事が好きな猪股大喜君(今度高校一年生)。密かに好きと言う訳でもなく、笠原匡にはすっかり知られていて、でも相手はバスケ部の次期エースで猪股はまあバドミントンは普通だけどそれ以外はさっぱりだから、例えるならシード校に一回戦敗退校が挑むみたいなものだと言われる。
好きとか言うのなら二回戦とか行ってみろ、名前を覚えられるとかアドレス交換するとかと言われた。
確かに一回戦と突破しなければ始まらないと思った猪股、せめて何か接点をと思った。今のところは朝イチで練習する為に行く体育館で鹿野が先に来ていて、そこに猪股が来て少しの間だけ二人になれる程度だった。
そんなある日、いつもの様に体育館に朝到着したら、未だ扉が開いていなくて鹿野が座ってバスケの本を熱心に読んでいる。バスケの本に夢中だからと声をかけられなかったものの、鹿野がクシャミをしたのをきっかけに自分のマフラーを、そして温かい飲み物をと矢継ぎ早に勧めた。ただ、猪股自身もクシャミをしたら、鹿野がちゃんとマフラーしなよ、いのまたたいき君と言ってくれる。あれ?名前を知ってくれていると思ったら、マフラーに母が名前を書いてくれていたのだ。
そんなある日、昇降口で鹿野とバスケ部の監督が何か真剣な話をしていそうな場面を見かけた。何だろうと思った猪股だが、家に帰ってみたら鹿野が載ってるバスケの雑誌がテーブルに乗っていた。猪股母は実はあの高校のバスケ部のOGで、それで買ったらしい。しかも鹿野母とは同じバスケ部で一緒だったと言う。こんな大きな接点があったのかと喜ぶ猪股だが、母が続けて言った言葉がショックだった。鹿野家は海外に転勤で引っ越してしまうのだと。
それを聞いた猪股が居ても立っても居られない状態で体育館に走る。そこでは鹿野が相変わらずバスケの練習をしていたが、その鹿野に向かって猪股はインターハイに行って下さい。海外に行かないで下さいと言うのだ。だって中学校の時に鹿野がほんの少しの差でインターハイに行けず、その後涙ながらの練習をしていたのを自分は見たから。
これを聞いて鹿野が「思い出した」と呟く。
鹿野は親の海外転勤で転校するのは規定事実と思っていた。ただ未練はあった。だから監督との話し合いの時はこわばった表情だった。でも猪股に言われて思い出した。あの時、インターハイに行きたかった、それが叶わなくて涙を流して、そして今練習してるのではないか。
うん、ここまでは分かったが、ああ、猪股母が千夏だけは知人の家に一人残ると言った時にまさかとは思ったが、そう来たか。その知人の家=猪股家だったのだ。