【推しの子】(第2期)・第19話
前回、今は一対一の戦いが各々等しく演技させられていると言われていた。例えばメルトと鴨志田は激しい感情演技の鍔迫り合いをしていた。だがかなは違う。かなは舞台の完成度を高くする為なのだと言う口実で自分を完全にあかねの演技の受けに回らせていた。過去の苦い思い出からそれが役者として使って貰える唯一の道なのだと。
でも姫川からもさっきの演技はもっと乗っても良かったのではないかと言われた。その姫川の演技は表情など客席から見えないから動きでやるものだと言う。姫川、今更台本をチェックしていたが、あかねが乗ってるからそれに負けない演技の為にとチェックしていたのだ。そして決めた。次の場面ではアドリブをやる。かなならそれが出来るよなと。
さて場面は姫川とアクアの場面。姫川は激しい感情演技の役者。だがアクアは同じ土俵では戦わない。役者としては姫川が格上で、同じ土俵で戦っては話にならない。なので無感情で対比構造を作る。姫川が熱く見せればそれに対してアクアの冷めた演技が映える。
この二人の場面にかなとあかねが加わる場面で姫川のアドリブが入る。あかねがかなに斬りつけたところで避けろと言ってかなをよりにもよって敵側のアクアに託すのだ。
しかしこのアドリブに合わせられたのはかなではなく、アクアの方。おまえは弱い女、それを強調しておいて、自分は鞘姫を守るのだと台本に戻る。
台本には戻るが、観客の視線はかなの方へ向けさせた。さあ、場は作った、おまえのやりたい演技をやれ。そう、アクアはかなに仕向けた。
かながこうなってしまった経歴。それはこれまでに断片的に描かれて来た。最初の時は好きなように演技していれば天才子役として持て囃された。それが母は満足だった。しかし人気に陰りが出ると母がおかしくなる。それで父が離れたりして行く。だからかなは自分がこの業界でやって行けないと母が持たない。
そんな時にボソっと言ってくれたのが五反田。もう少し周りとうまく合わせられないと業界で長くやって行けないぞ。それ以来かなは周りに合わせる演技になって行く。使いやすい役者になって行こうとする。気持ちを押し殺して。
その押し殺したかなに光を当てたのがアクア。
周りの奴らがかなが思う様にやるのを見たいと言ってるのだと。フォローは俺がやる。
とうとうかなの目に光が戻った。
五反田は驚いたし、そして鏑木は目が覚めた。そうだ、こうだったんだ、有馬かなは。泣ける子役でばかり目立ったが、本来はこう言う演技が出来るからこそ売れたのだ。自分がどうこう出来る立場になった時はかなを便利な役者だからと使っていたが、こう言う役者だったのだ。
そしてこれがあかねが見たかったかなの演技。
ああ、完全にファンの目になっちゃったぞ。
かながアクアの剣を弾き飛ばし、この機会に姫川の一太刀が入る。これでアクア=刀鬼は姫川=ブレイドに斬られる、そこに立つのがあかね=鞘姫。刀鬼の代わりに鞘姫が斬られて斃れる。
そうなのだ。やっとあかねはかなの本気と戦える筈だったが、ここで退場となる役柄。ああ、本気のかなに勝ちたかった。
かなとあかねの対決はこの形で終わった。
残されたのはアクアと姫川の対決。
だがアクアは嘗て、これまた五反田に言われていた。おまえは芝居が楽しい時ほど苦しい顔をする。五反田はアクアやルビーとの長い付き合いでもう気づいていた。二人共アイの子供なのか。そしてアクアはアイが殺された事で自分が芝居を楽しもうと言う時に罪悪感に締め付けられる。五反田はそこまで見ていた。いつもアクアの演技が破綻するのはそう言うタイミングだ。それがパニック障害のトリガーになっている。だからアクアに残された道は思い切り苦しむ事で演技を光らせる事だと。