声優ラジオのウラオモテ・第11話
杉下からこの回はファントムの重要な回で歌種やすみの魂の演技に期待していると台本を渡された由美子=やすみ。そしてその回の前の収録が終わった後、森から歌種やすみは主役をやった事があるのかと聞かれる。それは無い。ではサブキャラでもある回のメインをやった事があるかと聞かれる。お当番回。デビュー作で一回だけ。森からは次の回は白百合がメインになる回で、やすみの出来如何でファントム全体の完成度が影響されると言われた。
それを聞いていた杉下が森もプレッシャーをかけるなあと言うけど、最初に言ったのはあんただ。とは言え、作品全体に責任を持つ音響監督だから言わない訳には行くまい。
それはそれとして、やすみはこれで大きな重圧を背負う。背負ったままで、大きなきっかけも掴めずに一週間後の収録の日となってしまった。途中、高校生ラジオにラジオネーム外角高めからうまく行かない時の乗り越え方はどうしてるかと来ても、上の空だったやすみはそれに答えられない状態で。
そして当日の収録は当然の様にリテイクの繰り返し。予定の時間になってしまって、杉下がこの回はやすみの抜き撮りでは済ませたくないと言う頼みに、藤本や星空はいいよ付き合ってやると言ってくれたが、今の状態のやすみではやはりダメだった。とうとう時間切れになってやすみだけの翌日の抜き撮りになってしまう。
帰り際、大野がプロの声優なら出来ませんでした、一生懸命やったけどダメでしたは許されないのは分かってるな、これでダメだったらどうなるのかも分かってるなと、念押しされる。多分大野はやすみに奮起して欲しかったのだろう。脅しではなく。
残されたやすみは今迄の声優生活を振り返る。中学生の時に母と祖母に自分は声優をやりたいと、養成スクールへの入学希望を語る。そりゃ母は由美子の人生が中学生の今にそちらにもう向きを決めてしまうのに戸惑ったが、祖母は笑ってやりなさいと言ってくれた。この時点で祖母は未だ働いてたんだな。お金も出してあげるとか気安く言うし。母も戸惑ったけど応援してくれた。
こうして養成スクールに入って、新人向けのプラスチックガールズのオーディションに受かって、次はトラベルインターズにも受かって、マネージャーとして加賀崎もついてくれて、由美子がイケイケだった時代。ところが祖母が亡くなり高校生になってからオーディションも受からなくなり、行き詰まっていた時にオファーがあったのが高校生ラジオで、そして同じクラスの千佳が夕暮夕陽だと知る。
同じクラスで当然同い年の千佳に由美子は初めて負けたくないと言う感情を持ったものの、でも思い知らされもした。こんなにも自分と千佳の間には差があるのだと。自分はもうここまでなのだろうか。思えば有名声優と共演も出来て良い思い出になったのかなと考える。うん、歳を取るとね、そこに落ち着くんだよ。自分の過去を振り返って、まあいい人生だったんじゃないかと自分を納得させる。でも由美子は未だ高校生なのだ。ここで終わってなるかと食いしばる。
その結果が待ってくれていた千佳との帰り道で、めくるや乙女に言われた事にとうとう踏み出す。千佳=夕陽に頭を下げて、自分の隣で自分と同年齢で自分を見て来たのは千佳だけだ。だから先が見えなくなっている自分を助けて欲しい。
そう頭を下げられた千佳。開口一番に私には出来ないとか言い出したけど、それは由美子にアドバイスなんて出来ないと言う意味ではなく、自分が由美子の立場だったら相手に頭を下げて聞くなんて事は出来ないと言う意味。由美子はそれだけ演技に真剣に向き合っている。分かった、誰よりもあなたに詳しい自分が出来る事を由美子に伝える。
やはり千佳に聞くのが打破するきっかけか。