薬屋のひとりごと・第23話
猫猫が羅漢に対して勝負に出た。もう逃げない。
勝負とはシャンチー(象棋)で所謂将棋。羅漢は既に前回も描かれたが人を駒として動かすのには長けている。それで軍師となった。だから本当なら猫猫がシャンチーで羅漢に勝てる筈が無い。なのに勝負を挑むのだ。
ルールは5回やって3勝した方の勝ち。買ったほうの要求を負けた方はのむ。羅漢は可愛い娘の要求なので喜んで乗った。それに勝負はシャンチーだし。羅漢が勝った場合の要求は猫猫がうちの子として戻って来いと言うもの。色をなす壬氏だが高順が止める。
猫猫はそれを受け入れて、猫猫が勝った場合の要求は緑青館から妓女を一人身請けして欲しいと言うものだ。羅漢には意味が分からなかったが良いだろうと飲んだ。
もう二つルールがある。このカップに飲み物(壬氏の感想では匂いからしてキツめの蒸留酒かと思った)を均等に入れてある。さらにそこに薬を入れる。この薬は三杯迄飲むと猛毒になると言う。一敗したら一杯飲む。そしてもう一つ、どんな理由であろうと試合を放棄したら勝数と無関係にその場で負け。
壬氏はこれにはどんな駆け引きの意味があるのだろうかと思った。負けたら死ぬかもしれない、そんな脅しに羅漢は動揺する様な男ではない。私は薬と聞いて、毒薬にかなりの耐性がある猫猫には三杯では効かないが羅漢には効くのではと思った。結果的にはこの予想の範囲内ではあった。ただ「猛毒」の印象とはちょっと違ったが。
試合は予想に違わず羅漢が圧倒的に強くて忽ち猫猫がニ敗。だからあの薬入りの飲み物をニ杯飲む。そして三回目。ここで羅漢が手を抜いて猫猫が勝った。羅漢は嬉しそうに飲み物を飲む。
これで全体の勝ち負けは明らかになる筈だった。羅漢が飲んで酷い味がしたらそれは薬が入っている証拠。ならば次に羅漢が勝っても猫猫には結果的に最悪でも薬入りの飲み物はニ杯しか行かない。だから遠慮なく勝ちに行ける。もし何ともなかったら次も負けてみせれば良い。そして飲んで薬入りだったら最後の勝負も遠慮なく勝ちに行けば良い。あれ?でもニ回とも普通の味だったら?それで最後の勝負に勝ちに行ったら猫猫が猛毒を飲む事になるよ。まあ高い確率に賭けたのかもしれない。
しかしこの一杯で羅漢に異変が起きるのだ。頭がクラクラして倒れてしまった。高順と壬氏が慌てるが、猫猫は大丈夫、ただ酒に酔っただけだと言う。確かにその様に見えた。猫猫の種明かしによると羅漢は下戸で酒に弱いのだそうだ。ここで壬氏が思い出した。壬氏の所に来て羅漢がいつも飲んでいたのは果汁ばかりだった。え?そうだったの?てっきり酒かと思っていたよ。
猫猫が入れた薬は「百薬の長」の薬で、強い酒だったのだ。
酔い潰れている羅漢の頭に浮かぶ過去の話。羅漢は幼い頃から人間の顔が識別出来なかった。だから誰が誰なのかが分からない。父親は子供に諦めて愛人の家に通う様になる。放置された羅漢は碁とシャンチーにだけのめり込んだ。だがあの羅門、羅漢の叔父だけは違う。羅漢が人間を認知出来ないのならシャンチーなどの駒だと思ってあとは着てる物や体格で識別しろと言う。
それで大人になったら人を駒として使える軍師として認められる。偶々行った妓楼で、やはり碁やシャンチーが無敗の妓女鳳仙と対戦する。その鳳仙のしていた爪色が鮮やかな色だった。試合は鳳仙の勝ち。これには驚いたし面白かった羅漢。この時初めて人間の顔が、その鳳仙だけが見えた。
こうして羅漢は妓楼に何年も通う。そして碁とシャンチーを繰り返す。一方鳳仙の方はその技量から高い妓女になって行く。こうなると売り惜しみがされ、これがその筋の好事家が求める物となる。こうして身請け料は極端に高くなり、羅漢が払える物ではなくなった。
鳳仙の方も羅漢が次にいつ来られるか聞く様になる。そしてある日、鳳仙は賭けをしようと言う。勝った方が欲しい物を言う。負けた方はそれを与える。そしてその夜、二人は添い遂げる。ああ、この時か、猫猫を身ごもったのは。
妓女の価値を下げるにはどうするのか。それは子を孕ませる事だ。そう猫猫が言った時はてっきり羅漢が高い妓女の価値を下げる為に無理矢理犯したのかと思ったのだが、全然違った。そう言う事だったのか。
その頃、例の事件で羅門が後宮の医官から追放される。羅漢の父(恐らく一族の長)は怒り狂う。一族の面汚しめ。これが羅漢にまで及ぶ。羅漢が羅門と親しかった。下手に今官に居ると類が及ぶかもしれない。暫く遊学していろ。
この時羅漢は遊学はせいぜい半年だろうと思っていた。それは鳳仙と会える間隔程度。しかし三年もかかった。
あ、これ、落語にある話と同じだ。題名忘れたけど、若旦那が遊郭に通って花魁と恋仲になるものの、父親に怒られて真っ当な人間になるまでは家から出せぬと言われ、でも若旦那は花魁と添い遂げたかったからしっかり謹慎して父親に認められようとした。その間、花魁からの手紙が若旦那に送られたがそれは全部途中で封じられた。若旦那は来ず手紙の返事も来ない花魁はとうとう恋患って最後には死んでしまう。そうとは知らず謹慎が解けた若旦那が遊郭に行ったものの、遣り手婆からは若旦那が殺したも同然と言われてしまうのだ。予想通り同じ事が羅漢に起きた。
羅漢が家に帰ってみると手紙が沢山届いている。そして何か土塊の様なものが二本。あ、これは指だ。羅漢は気がついた、身請け話が破談になった、そして送られて来た二本。鳳仙はあの時に妊娠し、だから身請け話は破談になる。そして普通の妓女として客を取る事になってそして病気を移される。
慌てて駆け付けた緑青館で遣り手婆から箒で散々殴られる。今更何をしに来たのか。鳳仙ならもう居ない!(居るんだけどね。でもこれで羅漢は緑青館にはもう鳳仙が居ないと思ってしまう)
酔い潰れた羅漢は緑青館に連れて来られていた。鳳仙の禿をしていた梅梅が看病してくれていた。梅梅がくれた薬は酷く苦かったが猫猫が作ってくれた薬だと知ると喜ぶ。本質的に親ばかなんだよ。
そしてもう一つ猫猫が置いて行った物がある。青い枯れた薔薇。何だこれは。梅梅が呟く。枯れたとしても形が保たれるんですね。羅漢にこの意味が通じただろうか。猫猫との勝負に負けた羅漢は緑青館で身請けする妓女を選ぶ。でも勝負をすると決めた時に鳳仙が緑青館に居るとは全く知らない羅漢。あれ?待てよ。猫猫はこの経緯をどこまで知ってるんだ。全部知ってるのか?それとも部分だけ?鳳仙の事は緑青館で聞いたかもしれない。一方で羅漢の事情は緑青館に居るだけでは知らない。だから一方的に恨んでいるのかもしれない。
どうやら今シリーズはこれで話が区切るのか。
壬氏暗殺未遂事件の犯人の方は持ち越しか。