薬屋のひとりごと・第11話
猫猫は風明の所へ行く。玉葉妃からの届け物と言う事で、箱の中にはツツジと蜂蜜があったが、あれは何もかも分かってると言う意味だろうか。柘榴宮の大掃除の手伝いで来た事になっていた猫猫は、あれはただの大掃除ではなく、阿多妃が後宮から去る後始末だったのだろうと風明に言う。分かってるわねと言う風明に、里樹妃毒殺未遂の事も話しはじめた。
あれは形の上では柘榴宮の侍女がやって死んだ事になっているが、でも上級妃の空席如何に関わらず阿多妃が去る事は決まっていたのだ。何故なら阿多妃はもう子供が産めぬ身体になっていたから。あの出産の時にそうなってしまった。何故それを知っているのか。それは猫猫があの時の医官羅門の娘だから。ここまで言われた風明は流石に色をなす。
猫猫はなおも続ける。あの出産で体調を悪くした阿多妃に代わって風明が赤ん坊の世話をした。滋養の良い物として蜂蜜を与えて。ところが現代の我々は知っている蜂蜜によるボツリヌス症で赤ん坊は死んでしまう。この世界の人間には知られてなかっただろうが。風明は阿多妃の侍女として上がった時に阿多妃を見て一生この人の為に仕えて行こうと思っていた。なのにその阿多妃の唯一にして最後の子を死なせてしまった。自分が世話をしたのに。この時代、子供が大きくならずに死ぬ事は普通だったから悔やんだものの、仕方ないと思ったかもしれない。
先帝の妃となっていた里樹妃は阿多妃の事を慕って頻繁に柘榴宮に来ていた。ところがある日風明は知ってしまう。里樹妃がやはり幼児だった時に蜂蜜によって死にそうになっていた事を。阿多妃の子を殺してしまったのは自分が与えた蜂蜜だったのか。
これを知られてはならぬと思った矢先、先帝が崩御して里樹妃は出家した。これならもう里樹妃は阿多妃と会う事はない。そう思っていたのに今上帝は里樹妃を後宮に迎えてしまう。そうなるとまた里樹妃は阿多妃に会いに来る。あの、猫猫が見かけた里樹妃がこっそりと柘榴宮に来たのを見たのはそれだったのか。
こんな事では早晩赤ん坊が死んだ原因を知られてしまうかもしれない。そこで風明は里樹妃毒殺を考えた。そしてそれが発覚してあの侍女は身投げをしたが、首謀者は風明。
猫猫の様なこんな侍女が真相を知っては、いづれ壬氏の知る所となる。慟哭する風明に、死罪は免れないだろうが自分から提案があると猫猫は言う。毒殺未遂事件の動機は二つだったが、それを一つにしようと。蜂蜜の方は闇に葬って、やはり上級妃の席を守る為にやっただけにする。
風明の所から戻って、眠れぬ夜に猫猫があの城壁に登ると、そこに阿多妃が現れた。阿多妃は自分の為にと毒殺未遂事件を起こしてしまった風明と侍女を偲びそして後宮を去るにあたっての寂しさからか、いや、そこは心残りはなさそうだが、別の気持ちを抱えて飲んでいた様だ。
猫猫はその場に居た誰にでもきっと話しただろうと思って聞いていたが、そう言う話をして阿多妃は先に帰ってしまう。猫猫も城壁を下りると呼び咎める声ありけり。それは壬氏で、驚いて落ちて来た猫猫の下敷きになったが壬氏もしたたかに飲んでいた。ある人が酒に付き合わせておいて帰ってしまったのだと。それ、阿多妃だよね、多分。猫猫はこの二つの事象を結びつけなかったの?壬氏がうざいなと思ったのに、壬氏はどうやら泣いている。
風明は処刑され阿多妃が後宮を去る妃、里樹妃が彼女を追ってやって来る。里樹妃の侍女達は相変わらず里樹妃に冷たい視線だったが、あの毒見役の侍女だけは心を入れ替えて信頼出来る侍女になっていたか。
阿多妃が壬氏に宝冠を返す姿を見て猫猫はつくづく似てるなと思ったが、ふと気づくものがあった。あの皇后と阿多妃の出産が重なった時、羅門が無理矢理皇后の方に連れて行かれそして結局は羅門は肉刑に処せられて後宮から追放されたが、それだけの裏のありそうな事とは、皇后と阿多妃の赤ん坊の取り替えがあったのではないか。阿多妃は自分の医官を取り上げられたのは自分の地位が皇后よりも低いからでこの先も自分の子供に優先権が無いのならと取り替えをやらせたのではないか。だとしたら今の皇弟とされる人物は本当は今上帝の嫡子ではなかろうか。そして阿多妃と壬氏はあんなに似ている。
そうした考えが浮かんだ猫猫だったが、自分の身分でそんな事を知ったとしてもどうにもならないとそれ以上考える事をやめた。