異世界薬局・第7話
ファルマは以前エレンから神殿の異端審問官は恐ろしい存在だと教えられていた。しかも神殿の権威は皇帝の位をも左右する程のものだった。だから皇帝に泣きついてもダメかもしれない。そんな異端審問官に目をつけられたら。
目をつけられてしまいました。ファルマは広い草原に誘い込まれてその周りを騎馬の異端審問官が囲む。お前が影のない少年だな。手を上げて10歩後ろに下がれ。
争いたくなかったファルマは言われたとおりに10歩後ろに下がった。するといきなり捕縛の魔法陣発動。ところがこれがあっさり壊れてしまった。対悪霊神術陣が!ファルマから言わせれば自分は悪霊じゃないからと言う。
しかし異端審問官は聞く耳を持たない。ファルマの周りを騎馬で巡って先ず炎の神術で攻撃。これを炎症防御で防ぐ。酸素を消去して消火。やつめ、炎の負属性だったのか。ならば氷で攻撃だ。いや、ファルマ属性一つじゃないんで。だからこれも消滅。
バカな!複数の属性を!一体何なんだ!
もはや生死は問わぬ、滅殺せよ!
これ、聞く耳を持たないヤバい相手だな。防ぐだけだとどうにもならないぞ。
全神力で一斉攻撃。やったか(きれいなフラグ)。どの属性も全部防いでしまった。ここまでされるとどうしようもない。防ぐだけだと埒が明かない。大きな神力だまりをぶつけたら異端審問官達はふっ飛ばされた。リーダーらしき相手サロモンはそれで落馬。
ファルマは力を見せて、もうやめにしようと。この力は人を癒やす為に使いたいのだ。そう言いながら身体が光る。そして腕にはあの薬神の聖紋が浮かび上がる。
これでやっと異端審問官は理解した。異端などではない。御神体に影は出来ない。御身が光っているのだから。自分達は薬神様に攻撃をかけていたのだ。そう言われてファルマびっくり。
異端審問官は皆片膝をついて頭を垂れる。そしてサロモンが言うには薬神様に歯向かった神罰が下って自分はもう死ぬだろうと言うのだ。何かと思ってファルマが診眼をしてみたらサロモンの左脚が開放骨折していた。
サロモンはこの傷で死ぬ前に自裁する事を許して欲しい、今回の事は自分の命で贖って欲しいと言って短剣を取り出す。当然ファルマはそんな事を望んでいない。駆け寄ってその短剣を消して自裁を思いとどまらせた。
診眼によると白く見えるので処置さえすれば治る。だが下肢切断では赤くなって駄目だ。切断だと感染症から敗血症に至るとの結果らしい。まだ抗生物質を作ってなかったの?いやこの後の状況を見るとありそうだけど。整復で治りそう。
ただ、整復って、つまり手術でしょ。ファルマは薬学の徒なんだよ。そう思ってもこの世界でちゃんとした外科手術ができるとは思えない。このまま放置は出来ない。だったら自分がやるしかないじゃないか。うーん、その為の薬は良いとして道具も全部作り出すの?作ったみたいだけど。
ファルマは処置台を生成してテントまで作ってサロモンをそこに寝かせた。サロモンには術式を説明するけど、サロモンには分からんだろう。先ずは抗生物質を飲んでおく。そして背中から麻酔薬を注入。傷の内部を清浄化して傷を修復して包帯を巻いて固定。
と言う事で脊髄注射で麻酔薬を注入。
脊髄注射って痛いの。本当に痛いの。病気に縁のない人達もCOVID-19の筋肉注射でちょっとは注射の痛み(あれなんぞ無痛)を知ったかもしれないが、全く比較にならない。幼い頃から病気がちで腕にする注射の痛みには慣れていた子供の頃の私だったが、脊髄注射を初めてやられた時は流石に泣いた。注射ごときでは泣かない子だったのにあれは泣いた。でも二回目からは慣れたけど。
だからサロモンはよくもまあ「ぐっ」とかで済ませられた。最初から大変な痛みがあるって説明してないのに。
麻酔を脊髄注射したら効いて来て、そして処置開始。なんとか無事に済んだらしい。実験動物の手術した経験から出来た模様。
外で待っていた異端審問官達にはサロモンの処置は多分うまく行ったと告げると、異端審問官は罰を受けるどころかこの様な御慈悲をと言うので、ファルマはそう言うのはいいから、今回の事は絶対に他言無用にして欲しいと頼む。
数ヶ月後、新任の神官長が異世界薬局に赴任の挨拶にやって来た。なんでやと思ったらあのサロモンが帝都教区の神官長に就任したのだ。エレンびっくりだよ。
サロモン曰く、貴方様(ファルマ)のお側でお仕えしたく、「数々の手続きを経て」就任したと言うのだ。何だ、何やったんだ。そして大神殿に報告書を出しておいた。影がない少年など存在しなかったと。今後根も葉もない報告があがって来ようと、神官長たる自分が「適切に処理」すると言うのだ。
怖いよその顔。
ご挨拶がてらサロモンは神殿の宝物を持って来た。仰々しく箱に入っていたのは薬神杖。ファルマが手にしてみたら光を放つ。わー綺麗とエレンが手にしようとしたが、薬神杖はエレンの手をすり抜ける。人間が手にしようとしても触れられないと言うのだ。
ファルマはふと思った。この杖って浮く?サロモンは人間には出来ない神力を注ぎ続ければ可能と言う。と言う事でやってみたら魔法使いの箒みたいに浮きました。
サロモンはファルマに神力を抑える護符もくれた。これで神力が抑えられるので、ファルマの影も復活。ファルマにはこっちの方がありがたい。これで日中も普通に外出できる。
と言う事でファルマはロッテとブランシュと一緒に街に出た。でも何故かファルマはあくびをして寝不足の様子。何故こんな描写がと思ったらその次の場面の伏線だった。ある薬局の前で揉め事。異世界薬局と同じ薬が欲しいが売っていない。異世界薬局はいつも混んでるから市中の薬局に来たと言うのだ。
そこの薬局が言うには、あそこは貴族のボンボンがやってるから利益無視でやって行ける。店長ピエールが言うにはそれにあそこで扱う薬は薬師ギルドで許可していないから扱えない。帝都で加入できるギルドは薬師ギルドだけ。ギルドの方針には逆らえない。
と言う事でこれが繋がって行く。ファルマがお疲れなのはとても忙しいから。そこで今の薬師ギルドとは別のギルドを作りたい。そこに参加した薬局が増えたら利用客も分散して異世界薬局の忙しさも緩和できるだろう。取り敢えずは異世界薬局とメディークが参加して結成できる。あとはおいおい参加する薬局が出るだろうか。
そんな話をしていたら、早速その気配。
昼間に異世界薬局の噂をしていた薬局の店長のピエールが娘の名前を盛んに呼んでいた。娘のマリーが病気らしい。だがピエールの薬が効かない。一体どうすれば。
ああ、このピエールが新しいギルド参加第一号になりそう。
ところで次回のサブタイを見るとインフルエンザみたいなので、薬で症状を抑えるとか調合出来るなら抗ウイルス薬で済むのだが、子供の高熱を放置すると危ないからね。