異世界薬局・第6話
異世界薬局の営業は化粧品をとっかかりとして軌道に乗り始めた。
ド・メディシス家では一家揃って先日皇帝から下賜された新しい領地のマーセイルに来ていた。あの時に薬草の産地と言われていたがそれよりも港町のある領地だった。これ前回の磯辺焼きに繋がるのかな。
既に領地管理は代行領主アランに任されていてちゃんとした管理がされていた。ネデール国の商人が幅を利かせていてネデール国の勅許会社をたてに条約締結権と交戦権があるからと好き勝手な事をやっていると言う。税も収めない。ブリュノは税についてはあまり細かい事を言わず、好きに交易をさせて経済を反映させる方向で行くと言う。
と、ここまで話をして、後ろに居たファルマが退屈なのではないかと海に遊びに行くのを勧めた。
海岸に行ったらロッテとブランシュが砂の城を作って遊んでいた。ブランシュは海でバシャバシャしてみたいとファルマにねだる。でもさっき父ブリュノに子供達だけで海に入るなよと釘を差されたばかりだ。ブランシュがねだって、それに加えてロッテもねだる。私が居ますからと言うが、ロッテも9歳だし、それに二人共泳げない。
根負けしたファルマは足をちょっとつけるだけ、服を濡らしちゃダメと言う条件で許可した。でもバシャバシャしたら服は濡れるじゃん。ふと見たらエレンが居た。エレンは16歳か。子供達だけでの条件を16歳じゃクリア出来ないかな。エレンも海に入ると言って脱ぎだして、現代風の水着じゃないけど、水に入れる様な格好になった。
ファルマは入らない。泳げないのではなく、昔の記憶があるから。前世で薬谷完治は妹のちゆから海に入りたいと言われたが、でも未だ未だ小さいから来年入ろうねと約束していた。それなのにその後病気が発覚して妹との約束は果たせぬまま妹を失ってしまった。
そんな記憶が蘇って涙していたら、目を離したタイミングでブランシュが沖に流され始める。離岸流があったのだ。足だけって約束しても子供はもうちょっとだけって進んじゃうからな。
自分はまた妹を失うのか。そんな事を思ったか思わなかったかの瞬間にもうファルマは海に飛び込んでブランシュを助けようとする。しかしなかなか追いつけない。二度も妹を失うなんて嫌だ、ファルマの叫びが新たな神術を発動させた。
ファルマとブランシュとエレンの周りの海水が消滅。エレンは最初ファルマが海水を押し返してるかと思ったが、足元の海底が乾いてるのを見て押し返したのではなくて消滅させたのだと分かる。
ブランシュは無事に救出される。だがこの事を目の当たりにしてエレンは驚き、ロッテは恐ろしい物を見た様な顔をしていた。確かに水の負属性の神術を使えるファルマが水を減らす事は出来るだろう。だが海底は乾いていた。あれは消したのだ。負属性の神術ではない。そんな神術は存在しない。
ブランシュが助かったのは良かった。だがあれは一歩間違えば大変な事になった。だってそこに存在する水を消すのだ。それはまかり間違えばそこに存在するブランシュ達の身体の水も消したかもしれない。そんな事をしたら即死だった。危なかった。それにそれを見たロッテが恐怖していた。
就寝の準備をして挨拶をして帰ろうとしたロッテだったが、実はロッテがあんな顔していたのはファルマを恐れていたのではなかった。それよりも自分がブランシュを助ける立場だったのに自分が何も出来なかった事を後悔していた顔だったのだ。
それを聞いてファルマはロッテが岸に居てくれて良かった。ブランシュは大切な妹だが、君だって大切な家族なのだ。そう言って貰えてロッテは喜ぶ。ファルマ様のお言葉、一生忘れません。
しかしあの海水消滅の神術を見たのはこの三人だけではなかった。孤児院の少年が「影の無い子供が海水をまるごと消した」と言うのを教会に報告したのだ。海水を消したはまあ見ていて分かるが、影がないまでよく見ていたな。
とは言ってもあまりに荒唐無稽。最初は信じなかった神官だが、それでも調査に行ってみたら数日後なのに現地には異常な神力溜まりが残っていたと言うのだ。数日後なのに。俄に信憑性を帯びて、教会はその影の無い子供を探してその異端者を排除せねばならぬ。
こうして教会は影がない子供を探し始める。それはファルマの異世界薬局にも来た。しかしあんな格好していては露骨すぎるのでは。当然ファルマ達は警戒はする。門の衛兵にも話をしてみる。
その門の衛兵。朝交代で門を開いたら異世界薬局めがけて馬車が突っ込んで来た。衛兵はそれを避けるしか出来ず、馬車は異世界薬局に突撃。中を泥だらけにしてしまった。あれでそんな大変な状態になるのか。ブリュノ尊爵は大変なお怒り。
幸い人的被害はなくて、途方もない土砂を除去しなくてはならない。ここにあのジャン老人が若い衆を連れてやって来た。みんな海の男でここの船乗りの飴が気に入ってる。薬局の一大事と聞いて手伝いに来たのだ。やはりジャンは悪いキャラでは無かった。そして薬局の片付けを手伝ってくれる人は未だ沢山いる。異世界薬局の薬にお世話になってる客も薬局が大変な事になったと泥の撤去に集まって来たのだ。異世界薬局、もうこれだけ必要とされていた。
しかしそこに貴婦人ぽい人が駆け込んで来た。父が炎天下で倒れて目を覚まさない。ファルマは承ったが、周りを気にしたらジャン達がこっちは自分達がやっておくから気にせずに行ってあげなさいと。
この時点ではまたどこかの貴族の治療かなと思ったが、馬に乗ってる時の女性の顔が怪しくなったので、そっちか!と気が付いた。
行ってみたら広い草原であの教会の者達に囲まれていた。
おまえが影がない少年か。我々は異端審問官である。
これどうしちゃうのかな。またぞろ神術で撃退したらますます異端者狩りに目の敵にされそう。