異世界薬局・第3話
皇帝陛下の容態が急変して、往診へ。何故ファルマまでと思ったけどブリュノは身近に弟子が居ないみたいでじゃあ鞄持ちとかにファルマが必要なのか。
宮殿では沢山の人間が陛下の近くに集まっていた。普通、次の間とかに居るものじゃないか。そんなにすぐ近くに集まらんだろう。ブリュノを侍医長と呼ばれたクロード・ド・ショーリアックが迎える。Wikipediaを見たらブリュノと同じく尊爵だそうだ。クロードからは肺が相当弱っていると言われていた。肺臓の概念があるんだな。
ベッドの上にはすっかり弱った皇帝エリザベート二世が横たわっていた。ブリュノは皇帝の血を少し試験管に入れて様子を見ていた。神術なのか反応があるので相応の物は診てる様だ。しかし占星術師と話して今日は星のめぐりが悪いとか、この世界の科学技術ではその程度の事しか出来ない。
現代科学を知ってるファルマにはそんな考えが許せない。とは言ってもこの段階では何も口出しは出来なかった。ブリュノが薬を調合するが、それは単に苦しみを和らげるだけの麻薬系の薬。治療薬ではない。侍医長も神官を呼べとか言っていて、これではただ単に安楽死を待っているだけではないか。
でもブリュノも多分処方している薬が何なのかは分かっているのだろう。それでも皇帝には治療薬として吸入させる。
こんな状態で傍観するのはもうやめだ。ファルマは診眼を使って皇帝の胸の付近を見る。さっき肺がと言っていたから。確かに肺がやられている。肺癌か?と言うのには診眼は反応しない。肺炎?と言うのには反応した。だとしたら肺結核かと思ったら白く変わった。
肺結核なら現代は4剤併用薬物療法だ。耐性菌が出ない様に。リファンピシンは分子量が多く構造も複雑。うまく精製出来るだろうか。悩んでいたファルマだが、そこに幼い皇子が駆け込んで来た。いつ良くなるのかと泣きながら。
ファルマは決心した。僭越ながら私に陛下の治療をお許し願えませんか。相手は皇帝だからね、薬を出すから飲んでとかいきなり言えない。周囲だってそれを許さない。そのとおりにブリュノがお前は一体何を言ってるのかとファルマを叱った。でも皇帝はファルマの本気の眼を理解した。皇帝はファルマだけが未だ諦めていないのを見抜き、ファルマに治療を託す。皇帝自ら言うのなら周囲も反対が出来ない。それに彼らは諦めていたのだから。
とは言っても家に戻って薬の精製を開始してもブリュノは未だ納得出来ていない。息子のファルマがいきなりそんな事が出来る筈がない。外から開けろと言う声を無視してファルマは構造式を思い出して書いていく。イソニアジドとピラジナミドとエタンブトールは簡単だ。だがリファンピシンは複雑だ。それを必至に思い出して書き出す。
ブリュノが扉を破って入って来た。白死病を治療出来る者などこの世におらん。ブリュノは皇帝の病が白死病だと見抜いていた。ファルマは診眼で見たから分かったけど、ブリュノは地道に診断を下したのだ。
ブリュノはファルマが調合しようとしている物は何かと問う。答えられなければそれは毒だ。それは阻止せねばならぬと攻撃して来た。それを防ぐのにファルマが神術を使うが、とうとう杖無しで無詠唱で発動したのを見せてしまったので、ブリュノはファルマが以前とは違うのを理解した。
ブリュノは近くにあったファルマのノートを発見する。でも中に書かれているGram Negativeな菌のEscherichia coliなんて全然わからんだろうな。これは何だと言う問にファルマは新しい薬に関する知識で、雷にうたれた時に見たと答える。
ブリュノはファルマの肩にある聖紋を見て薬神の天啓を受けたのかと理解した。それならまあ納得も出来よう。ファルマはブリュノが調合した事にしろと言うが、ブリュノはおまえが作ったのならおまえが差し出せ。陛下はお前を信じたのだから。
父が納得したのでファルマは氷を消すが、これはブリュノからしたら驚きだった。水の聖属性なら氷は生み出せよう。だが何故それを消せるのか。あの頼りなさそうで子供子供していたファルマはどうなってしまったのか。
薬は完成した。肺結核だから今回は口を覆っているが、あの程度で大丈夫か。周囲の人間はそれを見て皇帝の御前で不敬だと噂する。
新薬を投与する前に前回作ったレーウェンフックの顕微鏡を取り出す。皇帝の痰からプレパラートに標本を作った。そしてそれを皇帝に見せる。あれってそんなに明瞭に見えるものなの?そこには赤く染まった桿菌が見える。ただ見ても分かりにくいから染色したのだろうとは思ったけど、赤いの?それってグラム染色じゃないの?結核菌Mycobacterium tuberculosisはグラム陽性だと言うから普通のグラム染色じゃないのか?(チール・ネルゼン染色らしい)
それにしても染色液用意してないと駄目だよね。
皇帝はクロードにもそれを見せる。そして周囲の者もそれを見る。なんだこれは虫か?ファルマはあれは白死病の原因になる微細な生き物だと説明し、これに作用する薬を投与するので半年かけて治しましょうと言う。
ファルマは準備して自分の眼の前でちゃんと飲む直接服薬確認療法をと言うが、その辺は飛ばして自分も飲むのを見せて皇帝に飲ませた。
そしてファルマはこの新薬によって白死病は不治の病ではなくなると宣言した。
実は私の伯母は若くして肺結核で亡くなっている。戦争前の時代だったのでストレプトマイシンも治療に使われていなかった。結核が不治の病だった時代がこの作品を見ると遥か昔に見えるかもしれないが、私から見たらたった一世代前でも不治の病だったのだ。
こんなファルマを見てブリュノは複雑だった。あんな子供だったのに、変わってしまった。自分の息子の事をちゃんと見ていなかった。
ファルマは父も肺結核に罹患しているので薬を差し出す。薬神の思召なら飲もうと言うが、ファルマは違うと言う。自分は薬を作る力を薬神から授かったかもしれないが、患者と向き合う姿勢は父から未だ学ばねばならないと。