天才王子の赤字国家再生術・第11話
デルニーオ王国の宰相シリジスがやって来て、ゼノヴィア侯に交易品で不正が行われていると文句を言って来た。ゼノヴィア侯は何の事やらと無視したら、だったらナトラ王家と直接話をさせて貰うと言う。こいつめ私を見くびってと思ったゼノヴィア侯ではあったが、話は聞かせて貰ったとばかりにウェイン摂政が入って来る。
シリジスの言い分はナトラを経由して輸出される帝国の品物を止めろと言うのだ。レベティア教の仇敵たる帝国の産品が入って来るのは文化侵略の先兵だと言うのだ。それ、冷戦期に東側が西側文化を敵視してたみたいなものですか。
でもウェイン摂政はあれは全部ナトラで作られた物だと言う。そんな言い逃れはできんぞと言うシリジスだが、何を根拠にそれを言ってるのだろうか。兎に角、今デルニーオ王国の若者で流行っている黄色い衣類は帝国産に違いない。
明確な根拠を示さないものだから、ウェイン摂政の、目の肥えたデルニーオの民が蛮族の作った衣類など受け入れる筈があるまい。だからあれはナトラ産だと言う。ほーら、シリジスさん、反論出来なくなったではないか。
だから別の難癖を言うしかない。帝国はマーデン侯領を通過する巡礼者相手に商売をしている。巡礼者への干渉をしないのがレベティア教の通例。それをないがしろにするのか。その話は聞いたが、一介の宰相がレベティア教を代表するがごとき話は受けられないとウェイン摂政は突っぱねた。怒ってシリジスは退席。捨て台詞を残して。
ゼノヴィア侯は昨晩の失礼を謝ってウェイン摂政を見送る。
ウェイン摂政はソルジェスト王国の王都ピスカに到着。栄えてるね。ニニムに言わせるとピスカはナトラ王国並に北に位置するものの、不凍港なのだそうだ。だから船を使った交易で栄えている。だからウェイン摂政の目論見としてはソルジェスト王国と友好関係を築いてその貿易に乗っかりたいと言うもの。今回、ソルジェスト王国との関係構築に積極的な気持ちでやって来た。
グリューエル王はウェイン摂政を歓待。二人で話をしたいから招待したのだと言って広間へ案内する。輿に乗って。グリューエル王はこの体型だからと言うが、日本も帝は自分では歩かなかったからね。内裏の中では知らないけど。
グリューエル王の好意的な感じに、ウェイン摂政は当初はナトラ王国がこれ以上西進するのを牽制したいから呼び寄せたと思っていた。そして友好関係を築いておいて、ソルジェスト王国と関係が悪いデルニーオ王国に対抗したいのだろうと踏んでいたが、この調子なら同盟関係を結んで二国でデルニーオ王国へ侵攻するのもありかもしれないと思った。
この調子の良い妄想はいつも必ず裏切られる。
広間に入ってみたら女の子が待っていた。ソルジェスト王国王女トルチェイラ。まさかグリューエル王の目論見はトルチェイラ王女とウェイン摂政との婚約とか一瞬思ったものの、グリューエル王はトルチェイラ王女に今日は奥に居ておれと言ったのにと言うので、そうでは無い。
近年名声が高まるウェイン摂政に、今日の食事の解説をすると張り切るトルチェイラ王女。でもウェイン摂政はそれよりも今日はグリューエル王との話だと思っていたのに、例によってその通りにならない。次々と出される美味なソルジェスト王国の料理を食べすぎて話どころか腹を膨らませるまで食べてしまった。
明日があるさと思っていたウェイン摂政だが、その頃ゼノヴィア侯のところにはシリジスから書簡が届いていた。デルニーオ王国からマーデン王国へ無期限で貸与した領土があるが、マーデン王国が国家でなくなった以上返還しろとの事だった。ただ、そこはデルニーオ王国の顔を立てて本当は売買だったのを無期限貸与にしたもので、言いがかりに近い。こうやって領土問題で言いがかりをつけるの開戦の前触れ。
翌日、ウェイン摂政はグリューエル王と何とか話をしたいと何度か声をかけたものの、何だかんだと言って全部はぐらかされる。
これはおかしい。わざわざ呼んでおいて話をしようとしない。これは最悪の可能性としてはウェイン摂政の暗殺。だが、その機会はいくらでもあった筈。だとしたら次の可能性は足止め。国を留守にしている間に何か起きようとしているのではと思ったウェイン摂政は直ちに帰国の準備をしろとニニムに命じた。
しかしいくらなんでも勝手に帰国してはグリューエル王の顔に泥を塗る事になる。そこに丁度グリューエル王からの呼び出し。そこで帰国の挨拶にグリューエル王のところへ向かった。
グリューエル王はウェイン摂政を座らせ、そして傍らに立つニニムに対しても座れと言う。グリューエル王、ニニムの事はもう知っていた。髪を染めていようと彼女はフラム人で、ウェイン摂政の寵愛を受けていると。
レベティア教の経典ではフラム人を悪魔の使いとして差別していたが、グリューエル王は気にしない。経典などただの紙束だ。
神の御心に沿った行いをしてるかどうかは自分で考える。人はそれを教えに頼りたくなるが自分は違うと。強い意志を持ってる王だ。王たる自分からしたら髪の色だの目の色だので臣民を区別しない。全て王国の民だと言う考え。おや?ここまでの考えを持ってるグリューエル王は、一体今回ウェイン摂政を呼び寄せて何がしたかったのか。
これだけの王なら大丈夫と思ったかウェイン摂政は同盟関係を切り出す。グリューエル王は良いだろうとあっさり受け入れた。細かい事は実務者同士でやらせよう。急いで帰国したいのなら帰るが良いと。そう言われてウェイン摂政は退出して帰国の途へ。だが、影にシリジスが隠れていた。
帰国してからウェイン摂政は急報を聞く。デルニーオ王国軍とマーデン侯軍が国境線で武力衝突。ソルジェスト王国はデルニーオ王国との同盟関係に基づいてナトラ王国へ宣戦布告。ヤバいわね。二国に攻め込まれるのは。
グリューエル王、全体的な見識はあったが、王侯貴族の趣味は違った。ウェイン摂政は稀に見る獲物。これを猟る為にデルニーオ王国のシリジスと結んだのだ。
ゼノヴィア侯が呼び寄せられた。ゼノヴィア侯は深く頭を下げて謝る。謝った上で挽回の機会を与えて欲しいと言う。気持ちは折れていない。この事態はデルニーオ王国とまず和睦する事で収めたい。その為の使者を既にデルニーオ王国へ送ってシリジスと面会の機会を作ろうとしていると言う。それはウェイン摂政がやろうとしていた事だった。だから早く動ける。
これ、言葉どおりにデルニーオ王国を戦線から離脱させる方向かな。それを納得しない、獲物をどうしても狩りたいグリューエル王との決戦が最終回だろうか。