ブルーピリオド・第10話
八虎と龍二の夜間旅行。湘南新宿ラインでその電車の終点小田原へ。でも入試の季節の夜中は寒い。取り敢えずどこか泊まる所を探そうとしたが、ラブホは何となく嫌な八虎であった。
ネットで予約した先はビジネス旅館。
あるよね、こう言う民宿に近い旅館。一度だけ「ホテル」と言う名前に騙されて泊った事がある。未だネットはおろかパソ通すら無い時代だから情報が無かった。
宿の主人は二人を見て男二人の筈だがと言うと、龍二がそうだけどと迫る。流石慣れたものなのか、宿の主人は動じずに部屋に通した。いや、後の宿の主人の好意を考えるとこの時に宿の主人は別の事を考えたのではないか。
ともかく部屋は旅館の名前に相応しいちゃんとした部屋。風呂まで部屋に付いていたのか龍二が先に入って出てきたら八虎は眠っていた。眠ってあの蕁麻疹を掻き始める。龍二はこれで初めて八虎にもこれだけの苦悩があるのを知ったかもしれない。慌てて龍二は掻きむしるのを止めた。
布団に入ってから八虎は龍二に聞いた。家に帰らない理由を。龍二は部屋の物を親に全部捨てられた事を明かす。海の音が二人を眠りに沈める。
翌朝八虎が起きたら龍二は海を見に行っていた。宿の主人が朝食を用意してくれていると言う。素泊まりの筈だったのに。これで宿の主人が最初にこの二人は訳ありと判断したのだろうなと思った。小田原のうまい飯を食べて気持ちを取り直せと。
チェックアウト迄未だ3時間ある。龍二は八虎に絵を描いたらどうかと言う。その龍二に電車の中で私は未だ死なないとはどう言う事だったのかと尋ねた。
龍二は中学の頃に友達に死にたいってぼやいた事があったが、じゃあ裸になって死んでみたらどうかと言われた。八虎はそれって恥ずかしいじゃないかと言うと、恥ずかしいと思うなら未だ死ねないと言われたそうだ。
裸の話から龍二は八虎に自分の裸の姿を描いてみろと言う。龍二も描くと言う事で、二人は衝立を隔ててお互い裸になって描き始めた。今迄何度も見て来たのに、こんなだったかと思う八虎。そうなのか?自分の裸なんて見る場面は無いのではないか。
描きながら龍二はお前の絵は日本画より服の絵の方が良かった。どうして日本画に進んだのかと聞いた。それは祖母が日本画を描いていたから。子供の頃は祖母に習って日本画を描いていたが、ある時違うと思い始めた。でも日本画をやめる訳には行かなかった。龍二の家庭事情がそうしたのだ。ここで何となくは分かったけど相変わらず詳細が分からない。両親がどうしてあの有様なのかが分からない。
ともかくこれは衣を剥ぎ取った自分を見つめ直す事になった。八虎も龍二も。特に龍二はやっと家庭の束縛を逃れる事が出来た様だ。
戻った八虎が描いた絵を大葉先生は良いねと講評する。自分探しに出る受験生は居るけど、八虎は良くなって帰って来た。
そして愈々明日は二次試験。三日かけて油彩とスケッチブックをやるのだそうだ。そう言う試験内容なのか。だから合格者のスケッチブックが存在してそれを見ろと言う事だったのか、前回は。そんな説明無かったから何故スケッチブックがあるのかと思った。
予備校からの帰り道で八虎に異常。あれ?龍二との小田原旅行で気持ちはだいぶ切り替わったんじゃないのか。そして試験当日。10kgもある油画の道具を何故かエレベーターは使えなくて階段で運ぶ事になる。そしてその途中で八虎は目の痛みで倒れた。
どうすんのこれ。目の痛みは別にして、重い荷物はあの身体のでかい花澤さん声の子が持ってくれそうな気もする。