神様になった日・第11話
ひなの一日。いかにも入院患者みたいな一日。もっとも意思疎通が難しい点でその比ではないが。陽太はその様子を今は見ているしかない。ただ一人司波にだけは目を向けて反応する。
やっと話しかける事が許可されたが、こっちさえ見てくれればと急いた結果ひなに激しく拒否される。うつむいている陽太に司波はコーヒーを差し出して言う。ひなはここに来て恵まれている方だと。ここに居る事が幸せ?その言葉は裏返しに陽太はひなを連れて帰れない事を意味していた。司波はやっとここまで、ひなが自分の方を向いて話をしてくれるところまで来たと言う。ここじゃなくても良いのではないかと言う陽太に、そんな話はあなたがあの子と目を合わせて会話出来る様になってから言えと司波は陽太に言った。
陽太がギリシャ神話の絵本を持って来て読んで聞かせるものの、反応無し。これどこかのタイミングで北欧神話のオーディンに繋がったら反応出る時があるのかな。今回は全くダメだったけど。
そしてまた司波がコーヒーを持って来て陽太に言う。ひなが何をされたのか知っているのか。司波はひながチップを脳から外されたと言うのは知っていた。だから今のひなが本来のひなであり、陽太が話をしていたと言うひなは単にチップと話をしていただけなのではないかと言う命題を突きつける。ここで反論出来ない陽太。
まて陽太、そこはこう考えるのだ。それはCPUアクセラレータを積んだ時と同じで、本来のひなと話したのだと。
そうは思えなかった陽太、自分のよって立つ場所を見失っていたところに伊座並から電話。実を言うと伊座並は好きだった。陽太が…陽太がひなと楽しそうに話をしているのを見るのが。だから自分を信じて。そして次に阿修羅から。阿修羅もひなが好きだった。阿修羅は央人から話を聞いていてひなを取り戻しに陽太が出かけているのを知っていた。お前を信じてるぞと。二人に励まされ、今度は陽太が空に電話をする。ひなって僕達の家族だよなと言う陽太に空はすぐに答えて勿論だし、また帰って来たら映画完成させようと言ってくれる。足元を見失っていた陽太が再起動するきっかけを三人が作ってくれた。他の人達もLINEで。
ひなとどうやったらまた接点が出来るか。そうだひなはゲームが好きだった。どうやってゲームを調達しようか。報告書に大画面TVとゲーム機とゲームをすぐに送ってくれと書いたら来ましたよ、そのセットが。
当然司波は眉をひそめる。ひなにゲーム依存させる訳には行かないと。一日一時間だけと押し切る陽太。狙いどおりにひなはゲームに興味を持つ。だがここで陽太が焦る。うまく動かせないキャラをああしろこうしろと口を挟むのは今のひなにはダメだ。
その陽太を押しのけて司波がひなを落ち着かせようと抱く。司波がひなにこれだけ尽くすのには理由があった。12年前に「一人で」娘を産んだ司波。だが、その娘がひなの様な病気だったのだ。多分ロゴス症候群。12年前だから今ほど知見がなくて色々検査された挙げ句に戻って来た娘はもう娘ではなくなっていた。
娘に幸せな時間を与えられなかった司波は小児科の研修で知った子供達のリハビリの場面で自分の娘に代わってこの子達に幸せな時間を齎そうと、そう司波は思った。そしてひなに出会った。ひなはこのサナトリウムに来た時は誰とも話も出来なかったのが、司波の世話でやっと司波とは話が出来る程になっていた。だからそれをダメにしかねない陽太は受け入れられなかったのだ。
やっと繋がりが出来たゲームではあったが、なかなかその先へ行けない。ひながうまく操作出来ないとどうしても口を挟んでしまう。ある日司波がひなに「アレガデネブアルタイルベガ」をしているのを見て陽太は気づいた。無理にやらせようと言うのではなく、やるのを待ってそこに寄り添おうと。そして始めたのがひながやれる様になる仕掛け。
就寝時刻が過ぎてもゲームを続ける陽太。司波はもう就寝時刻を過ぎたと文句を言うが、画面を暗くするし音も出ないと突っぱねる。翌日まで完徹して陽太が何をしたのかと言うと、プレヤーの経験値を跳ね上げておいた。これでひなの操作が拙くともゲームが進行する。
顔を見たら何か思い出すかもと、みんなの顔を描いたカードゲームも作ってみた。下手だとか言うけど、これ全員の特徴を掴んでいて、似顔絵ってそう言うのが一番難しいんだぞ。
僅か数日でひなと通じ始めた陽太を司波が怪しむ。素性を検索した結果、陽太の物とされる報告書の内容が実際にやっている内容と合っていない。その一方で陽太のPCにはチャットが入る。お前は誰だ?思わず陽太はもう少し時間をくれと打つもののダメだダメだダメだと画面が埋め尽くされる。いや、Security officerがこんなスパマーみたいな事しないだろ。それはともかく陽太の素性がバレようとしている。あと少しなのに。